胃がんについて
胃がんは世界中で減少傾向にあり、日本でも胃がんの年齢調整死亡率は著明な減少傾向を示しています。胃がんの多くがHelicobacter Pylori感染に伴う慢性胃炎を背景としており、除菌治療が広まったことに起因しています。国立がんセンター「2018年のがん統計予測」では、2018年に胃がんと診断された方は約12万8千人で、大腸がんについで2番目に多く男性8万7千人、女性4万人と報告されています。2018年に胃がんで死亡された方は約4万5千人でした。日本人にとって最も身近な悪性腫瘍の1つといえます。

胃がんの症状
胃がんそのものによる症状と胃がんに付随して起きる胃潰瘍や慢性胃炎による症状があります。胃がんは、早い段階で症状を自覚することは少なく、がんの進行によって食思不振、悪心・嘔吐、腹痛、吐血、黒色便などの症状がみられることがあります。
胃がんの治療
胃がんに対する治療法としては、内視鏡的切除(EMRやESD)、手術、化学療法があり、治療法は病期に基づいて決まります。
内視鏡的切除の適応は、早期の胃がんでがんの深さ(深達度)が粘膜にとどまっていて、リンパ節に転移している可能性がない場合です。

胃がんの標準的な治療法は、手術です。手術は病変の部位に応じた胃切除と胃の周囲の決められた範囲のリンパ節を取り除くリンパ節郭清、食べ物の通り道を作り直す再建が基本です。腹腔鏡下胃切除手術は、腹部に5mmから10mmの小さなきずを5ヶ所開けて手術専用のカメラ(腹腔鏡)や手術器具(鉗子)をおなかの中に入れて、腹腔鏡で映し出された腹腔内の様子をテレビ画面で観察しながら手術をおこないます。日本内視鏡外科学会2016の報告によると全国的に胃がんに腹腔鏡手術を適応としているのは約45.5%で、そのうち進行がんに腹腔鏡(補助)下幽門側胃切除術を適応としている施設は50.1%で、さらに腹腔鏡(補助)下胃全摘術を適応としているのは41.7%でした。

当院の胃がん治療
当院では従来の開腹手術にくわえ、2003年からは早期がんに対する腹腔鏡下幽門側胃切除術を導入しました。2007年からは胃上部早期がんに対する腹腔鏡下胃全摘術を、2009年からは2群リンパ節郭清が必要な進行がんにも適応を拡大しています。年間約30-40例の胃がん手術を行っており、2016年は胃がん症例の92%に腹腔鏡下手術(幽門側胃切除術、胃全摘術、噴門側胃切除術)を行いました。
当院の胃癌手術症例の推移


当院は2013年新病院に移転しました。手術室には、腹腔鏡手術モニターとして4Kハイビジョンモニターが設置され、大画面に映し出された繊細な画像により、手術室内のスタッフそれぞれがそれぞれの立ち位置からモニターごしに術野を共有できるようになっています。
胃がんの術後は、がんの深さ(深達度)とリンパ節転移の程度で決定したがんの進行度(ステージ)で、再発のリスクの高いと考えられるステージIIステージIIIの患者さんには、抗がん剤による補助化学療法を行って、がんの再発予防に努めています。
胃がんが既に肝臓、肺、腹膜へ転移しているステージIVの方やがんが再発した患者さんには、全身化学療法や分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤などでがんが大きくなるのを抑えて生存期間の延長に努め、緩和ケアのチームと相談してがんに伴う症状の軽減をはかっています。
消化器外科医、消化器内科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医、緩和医療内科医とがん看護専門看護師や緩和ケア認定看護師、管理栄養士など、様々な職種の専門家によるミーティングを定期的に行い、日本人にとってもっとも身近な悪性腫瘍の1つである胃がんに対する最も適切な治療の提供を心がけています。