肝臓がんについて
肝臓がんは、その組織型、発生部位によりいくつかの種類に分類されます。肝臓から発生したがんを原発性肝がんと呼びます。消化された食物に含まれる栄養素の合成、糖分の貯蔵ブドウ糖への分解、有害物質の血液胆汁への排出(解毒)に関わる肝細胞から発生する“肝細胞がん”と、胆汁の流れ道である胆管上皮から発生する“胆管細胞がん(肝内胆管がん)”が原発性肝がんの大部分を占めます。
他の臓器に発生したがん細胞が、肝臓に転移したものは転移性肝がんとされ 肝がんに含まれますが、治療法は転移性肝がんの原発臓器によって異なります。近年は大腸癌発生頻度の増加と大腸癌に対する化学療法の発展に伴い、切除可能な転移性肝癌がん(肝転移)が増加しています。
肝がんは主として肝炎ウイルスが原因ですが、最近では肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)によるものが増加傾向です。2018年に肝臓がんと診断された診断された方は約3万9千人で全がんの6番目の多さでした。2018年に肝臓がんで死亡された方は約2万7千人で全がんの5番目の多さでした。
肝臓がんの症状
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期の自覚症状はほとんどなく、がんが一定以上進行することによって、初めて症状が出現します。医療機関での定期的な検診や、他の病気の検査の時などに偶然肝臓がんが発見されることも少なくありません。進行するとみぞおちのあたりにしこりを触れるようになったり、腹部に圧迫感、痛みを感じたりします。また肝臓がん特有の症状ではないものの、何らかの原因で肝臓に障害が起こった場合、食欲不振、倦怠感、黄疸などの症状が見られる場合があります。
肝臓がんの検査
肝臓がんの検査には、がんの性質(組織型)や広がり、進行度を調べる目的でCT検査、MRI検査、超音波検査などの画像検査が行われ、血液検査(腫瘍マーカー)を組み合わせて行います。必要であれば針生検などの検査を追加します。
【肝臓がんの治療】
肝臓がんの進行の程度(ステージ)は、局所因子(T因子:腫瘍の大きさ、個数、脈管侵襲)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の組み合わせで決定されます。肝臓がんの患者さんは、もともと慢性(ウイルス性)肝炎や肝硬変といった背景肝を有しており、肝予備能(肝機能の程度)が低下している場合も多く治療方針の決定においては十分配慮が必要です。肝臓がんの治療は、これらの進行の程度(腫瘍の広がり)と肝予備能さらに全身状態を総合して判断されます。
1)肝臓がんの手術:肝切除術は、腫瘍の数、大きさ、局在(亜区域、区域、葉など)によって根治性を考慮した切除範囲と、肝予備能から計算された許容切除量(肝臓全体の切除可能な割合)によって安全性に配慮した切除範囲で手術の計画を立てておこないます。
肝部分切除 腫瘍の大きさに応じて部分的に肝切除を行う方法です。比較的小さな切除になることもありますし、複数個の腫瘍の場合には何カ所も切除することがあります。
肝区域切除 肝臓内の血管の走向に基づいて、肝臓全体の1/4?1/3程度を切除する術式です。
肝葉切除 肝臓の右葉(肝の右側)または左葉(肝の左側)を切除する術式です。右葉切除では全肝の右側約2/3、左葉切除では全肝の左側約1/3を切除します。

当院では2008年度から腹腔鏡下肝切除術を導入しました。腹腔鏡による拡大視効果が得られ、開腹手術と比較して創が小さく、出血量が少ない、術後の痛みが少なく回復が早いため術後入院期間が短縮されるなどのメリットがあります。また治療成績も遜色ないとの報告があります。肝臓内視鏡外科研究会により、安全性評価を行う目的で腹腔鏡下肝切除術の症例登録システムが導入されており、当院も登録施設として参加しました。認定基準と手術適応に応じて患者さんに安全、安心していただける手術療法を提案しています。
外科、肝臓内科、腫瘍内科、放射線科医師を交えたカンファレンスを行い、患者さんの状況を考慮した上で肝癌診療ガイドラインに沿い、治療方針を決定しています。